臨床遺伝学を学びたいすべての人へ

臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーの試験問題解説、臨床遺伝学のまとめ、遺伝性疾患についての情報などを発信します。

臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー®になるには

“遺伝”という単語を聞いてみなさんはどのようなイメージをもたれるでしょうか。親と子どもの顔が似ていることや、親子鑑定などが思い浮かぶかもしれません。

 

遺伝とは、親から子へ生命の設計図となる情報を渡すことです。私たちはだれでも父親と母親から半分ずつ遺伝情報を受け継いでいます。親子で顔が似ていたり、DNAを調べることで親子鑑定ができるのもこのためです。

 

さて、遺伝に関わる仕事はたくさんありますが、その中でも“臨床遺伝専門医”と“認定遺伝カウンセラー®”という職種についてお話します。

  • 家族に何人も若くして乳がんの人がいて自分も乳がんになるのではないかと心配…
  • 高齢妊娠でダウン症候群などの染色体異常が増えると聞いて不安…
  • 子どもが生まれつき様々な病気をもっていた。なんでだろう…

このような不安や悩みを感じたときに相談できるのが臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラー®です。これらの職種が主となって遺伝カウンセリングを提供しています。

 

遺伝カウンセリングとは?

2011年に公表された日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」では、“遺伝カウンセリングは,疾患の遺伝学的関与について,その医学的影響,心理学的影響および家族への影響を人々が理解し,それに適応していくことを助けるプロセスである.このプロセスには,1.疾患の発生および再発の可能性を評価するための家族歴および病歴の解釈,2.遺伝現象,検査,マネージメント,予防,資源および研究についての教育,3. インフォームド・チョイス(十分な情報を得た上での自律的選択),およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング,などが含まれる.”

と記載があります。つまり、遺伝に関わる悩みや不安をもつ方に対して、その状況に適応できるように援助するプロセスということですね。

 

少し話がそれてしまいましたが、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラー®はどちらも日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会という2つの学会によって認定される資格であり、これらの職種によって遺伝カウンセリングが行われます。

 

  • 臨床遺伝専門医

臨床遺伝専門医は医師のみが取得できる専門医であり、以下の5つの基準を満たす場合に認定試験の受験資格を得ることができます。

 

(1)継続して3年以上、日本人類遺伝学会あるいは日本遺伝カウンセリング学会の会員である者

(2)継続して3年以上、日本専門医機構の定める基本的領域の学会の専門医または制度委員会の認める専門医(認定医)である者

(3)認定研修施設に所属する指導責任医、あるいは認定研修施設外に所属する指導医の指導を受けながら、臨床遺伝の研修を3年以上行い、遺伝カウンセリングを含む遺伝医療を実践した者

(4)遺伝医学に関係した学術活動(論文発表、学会発表等)を行っている者

(5)臨床遺伝専門医到達目標(以下到達目標という)に記載されている能力を有する者

 

上記の条件を満たした方は、臨床遺伝専門医の専門医試験を受験することができます。

こちらの試験は筆記試験と面接試験(ロールプレイを含む)となっており、以下で説明する認定遺伝カウンセラー®の方の認定試験と筆記試験の一部は共通しています。筆記試験は選択問題のみですが、計算が必要な設問も多くあります。

 

今後具体的に試験対策についても記事を書く予定ですが、筆記試験の勉強をされたい方はまず、以下の制度委員会から過去問の取り寄せを行いましょう。過去問の形式や傾向、範囲などを確認したうえで臨床遺伝学の勉強に入ることがおすすめです。

 

詳しくは、以下のHPをご覧ください。

臨床遺伝専門医制度委員会 (jbmg.jp)

 

  • 認定遺伝カウンセラー®

認定遺伝カウンセラーは非医師の資格です。認定遺伝カウンセラーとなりうる基盤の職種としては看護師、保健師助産師などのメディカルスタッフや、臨床心理士社会福祉士、薬剤師、 栄養士、臨床検査技師などのコメディカル・スタッフ、また生物学・生化学などの遺伝医学研究者やその他の人文・社会福祉系などの専門職が考えられます。

 

遺伝カウンセラーになるためには、遺伝カウンセラー認定養成課程を設置した大学院を修了することが必要です。大学院修了により、認定遺伝カウンセラー認定試験の受験資格を得ることができます。

養成課程は、現在は以下の20大学に設置されています。遺伝カウンセラーの需要は大きくなると思いますので、養成課程も増加することが見込まれます。

 

遺伝カウンセラー養成専門課程(50音順)

  • 岩手医科大学大学院 医学研究科 医科学専攻 応用医科学群 遺伝カウンセリング学
  • 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻遺伝カウンセリングコース
  • お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 ライフサイエンス専攻 遺伝カウンセリングコース
  • 金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 医科学専攻(修士課程)遺伝カウンセリングコース
  • 川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 医療福祉学専攻修士課程 遺伝カウンセリングコース
  • 北里大学大学院 医療系研究科 医科学専攻修士課程 遺伝カウンセリング養成プログラム
  • 京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 専門職学位課程 遺伝カウンセラーコース
  • 近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻 遺伝カウンセラー養成課程
  • 国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科・保健医療学専攻修士課程 遺伝カウンセリング分野
  • 札幌医科大学大学院医学研究科医科学専攻修士課程遺伝カウンセリングコース
  • 順天堂大学大学院医学研究科 医科学専攻(修士課程) 遺伝カウンセリングコース
  • 信州大学大学院医学系研究科修士課程医科学専攻遺伝カウンセリングコース
  • 千葉大学大学院 医学薬学府 修士課程医科学専攻社会医学コース
  • 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 修士課程医歯理工保健学専攻 遺伝カウンセリングコース
  • 東京女子医科大学大学院 先端生命医科学専攻 遺伝子医学分野 遺伝カウンセリング専門課程
  • 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻公衆衛生・遺伝カウンセリングコース
  • 鳥取大学大学院医学系研究科医科学専攻
  • 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻遺伝カウンセリングコース
  • 新潟大学大学院医歯学総合研究科医科学専攻修士課程・遺伝カウンセリングプログラム
  • 藤田医科大学大学院保健学研究科保健学専攻修士課程臨床検査学領域遺伝カウンセリング分野

 

上記の養成課程を修了すると、認定試験の受験資格を得ることができます。そのため、卒業後就職してから認定試験を受けることとなります。(就職時には認定遺伝カウンセラー取得見込みという形で就職し、最初の半年は”認定”ではない遺伝カウンセラーとして業務を行う形のところが多いと思います。)

 

遺伝カウンセラーの方の試験も臨床遺伝専門医試験と同様に、筆記試験と面接試験(ロールプレイを含む)という形式です。筆記試験の一部は臨床遺伝専門医と共通ですが、遺伝カウンセラーの方の試験では、心理社会的な内容やコミュニケーションなどについても問題が出されます。

また、形式は変わる可能性がありますが、記述式の設問があるのも臨床遺伝専門医との違いです。

 

詳しくは以下のHPをご覧ください。

認定遺伝カウンセラー制度委員会 (umin.ac.jp)

 

これらの職種はまだ日本では新しく、聞きなれない方もいらっしゃるかもしれません。ただ、今後必ず重要になってくる職業だと思っています。

 

今後はこれらの過去問の解説などもしていこうと思っています。

このブログが遺伝医療に関わる仕事をしたいと思っている方の助けになれば幸いです。