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高齢出産のリスクと出生前診断

医学的には高年妊娠と呼ぶことが多いですが、実は明確な定義はありません。一般的には35歳以上の妊娠を高年妊娠と呼ぶことが多いです。

 

「高齢出産は病気をもった子が生まれやすい」などと聞いて漠然と不安に思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

今回は高年妊娠のリスクについて具体的にまとめてみます。

 

まず、2014年には、全体の27.6%とおよそ4人に1人が高年妊娠であるとされています。高年妊娠では、赤ちゃん側には染色体異常などが増加し、お母さん側には妊娠高血圧症候群前置胎盤などの合併症がみられることがあります。

 

染色体異常は数の変化(数的異常)と、形の変化(構造異常)に分けられます。

高年妊娠ではこの中で数の変化が起こる可能性が高くなります。これはなぜかというと、卵子をつくる際に染色体を2本から1本に減らす過程があるのですが、年齢が上昇するにしたがって、染色体が分かれにくくなり、1本になるところが2本のままになってしまうことがあるからです。2本の染色体をもった卵子と1本の染色体をもった精子が受精することで3本の染色体をもった受精卵(赤ちゃん)となります。

これは逆もしかりで、精子が2本の染色体をもっていて、受精卵が3本の染色体をもつことも起こりえます。

 

 

高年妊娠でどれくらい染色体異常のリスクが上がるのか

染色体異常の中でも一番頻度の多いダウン症候群を例に考えてみましょう。

 

30歳で出産するときのダウン症候群のリスクは1/959です。959人が出産したらそのうちの1人がダウン症候群をもつ赤ちゃんを出産するということです。

次に高年妊娠といわれる35歳で出産するときのリスクを見てみると、1/338です。338人に1人はダウン症候群をもつ赤ちゃんを出産するということですが、逆に考えると337人はダウン症候群でない赤ちゃんを出産するということですね。この数字を見てどう思われるでしょうか?

40歳で出産されたときを考えると、1/84、45歳で出産となると、1/30となります。

 

この数字をみてどう思われるかは人によってさまざまかと思います。この数字を見て不安に思われて出生前診断を検討される方や、妊婦検診で赤ちゃんの首のうしろのむくみを指摘されたりなどで不安に感じられて出生前診断を検討される方もいらっしゃるかもしれません。

 

出生前診断とはどのようなものがあるのか?

出生前診断は大きく分けて2つに分類されます。それは、非確定検査と確定検査です。

非確定検査には母体血清マーカー検査やNIPTが含まれます。母体血清マーカー検査は妊婦さんの血液中のホルモンの数値や年齢、家族歴などを考慮して赤ちゃんが染色体疾患を持っている可能性を確率として算出する検査です。こちらの検査ででてくるのはあくまでも“確率”であり、本当に赤ちゃんの染色体を調べているわけではありません。つまり、羊水検査などの侵襲的な確定検査を受けるかどうかを判断するためにする前段階の検査という立ち位置です。

 

NIPTとは?

上述した母体血清マーカー検査は妊婦さんのホルモンの数値などから確率を出す検査でした。NIPTも妊婦さんの血液検査で行うという点では同じです。しかし、見ているのは妊婦さんの血液中に流れている赤ちゃんの染色体の断片(DNA)です。

どういうこと?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。妊娠中は胎盤を通じてお母さんと赤ちゃんで栄養分をやり取りしていますが、この胎盤由来のDNAがお母さんの血液中にも流れ込むことが分かっています。胎盤というのは受精卵からつくられる組織なので、基本的には赤ちゃんと同じ遺伝情報をもっています。

 

妊娠中に自分の血液の中に赤ちゃんのDNAも流れているなんて不思議ですよね。

 

妊婦さんの血液を採取して、そこに含まれている妊婦さん自身のDNAと赤ちゃん由来のDNAを、染色体の由来ごとに量を測定します。妊婦さんがダウン症候群などの染色体異常をもっていないという前提ですが、赤ちゃんが染色体異常をもっていると、その染色体の量の比が変化します。それを検出することで赤ちゃんが染色体異常をもっているかどうかを予測するのがNIPTです。

こちらは赤ちゃんの遺伝情報を見ているから確定検査なのでは?と思われる方もいらっしゃると思います。しかし、あくまでも胎盤由来の情報であること(まれに胎盤と赤ちゃんで異なる遺伝情報を持つ場合があります。)、母体の染色体異常や腫瘍などの影響があることなどからあくまでも非確定の検査となります。

 

NIPTでも陽性であった場合には、妊娠継続の判断を行うためには、確定検査である羊水検査を受ける必要があります。陰性だった場合には、実際に赤ちゃんが染色体異常をもっている可能性よりも、羊水検査による流産の可能性の方が高くなってしまうので基本的には羊水検査には進みません。